在留資格

育成就労から永住権へ――ある家族の10年を想像してみた

はじめに

在留資格の制度は、条文だけを読んでも全体像がつかみにくいものです。そこで、制度に人生をかけた一人の外国人の軌跡を通して、骨格を整理してみました。私の勝手な妄想として、ある外国人労働者とその家族の10年間を追いかけてみました。育成就労制度で日本に来た若者が、特定技能、技術・人文知識・国際業務(以下、技人国)、そして永住権へと歩んでいく軌跡です。制度の骨格を理解するための読み物として、ご覧ください。

第1章 旅立ち――育成就労で日本へ(来日1年目)

ミン・ドゥックさん(22歳)は、ベトナム北部の工業都市で生まれ育ちました。地元の高校を卒業後、日本語学校に通いながら日本語能力試験N4を取得。送り出し機関を通じて、大阪府内の金属加工の町工場と育成就労の雇用契約を結びました。

育成就労は、2024年の入管法改正によって技能実習制度に代わって導入された制度です。技能実習との最大の違いは、育成就労が「人材の確保と育成」を正面から目的として掲げている点です。労働者としての権利も強化されており、一定の条件のもとで就労先の変更(転籍)も認められています。

ドゥックさんは大阪の工場の寮に入居し、日本人の先輩作業員に指導を受けながら旋盤加工を覚えていきます。最初の半年は言葉の壁に苦労しましたが、工場の社長が日本語教室の費用を負担してくれたこともあり、日常会話は1年で不自由なくできるようになりました。

第2章 技術と言葉を磨く(来日2〜3年目)

工場での仕事に慣れてきたドゥックさんは、技能検定の勉強を始めます。育成就労から特定技能1号へ切り替えるためには、技能試験と日本語試験の両方に合格することが必要です。

育成就労の在留期間は最長3年。この間に特定技能1号への移行要件を満たすことが、日本での就労を継続するうえでの大きな目標になります。

来日3年目の春、ドゥックさんは特定技能1号の要件を満たし、在留資格の変更申請を行いました。ここで重要なのは、この手続きは雇用主(工場)と本人が連携して進める必要があり、書類の準備や申請のタイミングを誤ると、在留資格の空白が生じるリスクがあるという点です。

第3章 特定技能として腕を振るう(来日4〜8年目)

特定技能1号に切り替わったドゥックさんは、より高度な作業を任されるようになります。精密な部品加工の品質管理を担当するようになり、後から来た育成就労の後輩たちに技術を教える立場にもなりました。

来日6年目、ドゥックさんは特定技能2号の試験に挑戦します。特定技能2号は、高度な技能と実務経験が求められる資格で、家族の帯同が認められ、在留期間の更新に上限がなくなります。合格したドゥックさんは、名実ともに「日本で長く働けるビザ」を手にしました。

同じ頃、工場の同僚として働いていた同じベトナム出身のフオンさんと結婚。二人は大阪市内にアパートを借り、新しい生活をスタートさせます。

第4章 管理職への転身――技人国への変更(来日9年目)

特定技能2号で高い評価を得ていたドゥックさんに、転機が訪れます。取引先から品質管理の責任者として来てほしいというオファーが届いたのです。

この時、ドゥックさんの背中を快く押してくれたのは、工場の社長でした。かつてドゥックさんのために日本語教室の学費を出してくれた恩人である社長は、管理職への転身というステップアップを自分のことのように喜び、応援してくれました。これは、ドゥックさんがこれまで仕事や日本での生活に誰よりも真剣に取り組んできたからこそ得られた、確かな信頼の証でもありました。

ここで重要な点があります。特定技能は「現場での熟練技能」に紐付いた在留資格です。管理職として「現場を指揮・監督する」業務がメインになる場合、特定技能のままでは職務内容が資格外になる可能性があります。

この場合に選択肢となるのが、「技術・人文知識・国際業務(技人国)」への在留資格変更です。技人国は、理工系の技術や人文・社会科学の知識、または外国人としての語学・文化的知見を活かした業務に就く在留資格です。ドゥックさんの場合、精密加工の技術的知識を活かした品質管理部門のマネジメント業務として申請することが考えられます。

ただし、この変更申請は審査が厳しく、職務内容の記載や雇用契約書の準備が非常に重要です。転職先の企業規模、業務内容と在留資格該当性の整合性、報酬水準などが細かく審査されます。ここは専門家のサポートが特に力を発揮する場面です。

第5章 永住申請――日本が「ふるさと」になる日(来日10年目)

転職から1年、品質管理マネージャーとして充実した日々を送るドゥックさんに、次の節目が来ます。永住許可の申請です。

永住許可の主な要件は次のとおりです。

  • 引き続き10年以上日本に在留していること(うち5年以上は就労ビザ等での在留)
  • 素行が善良であること
  • 独立の生計を営めること
  • 日本の国益に適すること

ドゥックさんは来日から10年が経過し、在留歴・納税・社会保険加入・犯罪歴なしという実績が揃っています。特定技能2号での在留歴が長く、就労状況も安定していたことが、申請において有利に働きます。

申請書類は膨大です。在留歴を証明する書類、収入証明、納税証明、勤務先の証明、身元保証人の書類など、準備に数ヶ月かかることも珍しくありません。また、審査期間も数ヶ月〜1年程度かかる場合があります。

ドゥックさんとフオンさんは、行政書士のサポートを受けながら申請書類を整え、来日11年目の春に永住許可を受け取りました。

第6章 次の世代へ

ドゥックさんとフオンさんの間には、日本で生まれた娘のハンちゃんがいます。

ここで一つ大切なことをお伝えします。日本で生まれた子どもでも、両親がともに外国籍の場合、日本国籍は取得できません。ハンちゃんはベトナム国籍のまま、家族滞在の在留資格で日本に暮らしています。

ハンちゃんは地元の学校に通い、日本語もベトナム語も堪能な二言語話者として育っています。ドゥックさんが永住権を得たことで、ハンちゃんも永住者の配偶者等の身分に基づく在留資格へ変更できる道が開かれました。この資格は、将来就職する際に職種の制限がなくなるだけでなく、親から独立して自活するようになっても、その身分が変わらない限り継続できるという大きなメリットがあります。

親が日本に根を張るという決断は、次世代の子どもたちにとって、将来の選択肢を大きく広げる贈り物にもなるのです。

おわりに

ドゥックさん一家の話は、あくまで私が頭の中で描いたシナリオです。しかし、これに近い経緯をたどっている方は、日本中探せば、きっとたくさんいらっしゃると思います。

在留資格の制度は複雑で、手続きを誤ると本人の人生設計に大きな影響を与えます。だからこそ、節目ごとに専門家に相談することが、本人にとっても雇用主にとっても大切です。

外国人雇用に関わる在留資格手続き、就労ビザの変更・更新についてご不明な点があれば、どうぞお気軽にご相談ください。

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