在留資格

育成就労制度

家系図がほどいてくれた、外国人雇用への小さな違和感

家系図を事業の軸の一つに据えるべく、自分の戸籍から家系図を作る作業をしています。その過程で、ずっと前から言葉に出来なかった考えを言語化することが出来ました。

戸籍を取り寄せ、明治・大正・昭和と、紙の上を一枚ずつ遡っていく。祖父母の名前。曾祖父母の名前。会ったこともない、先祖の名前。

そうして見えてきたのは、私が漠然と憧れていた古き良き日本では、ありませんでした。

幼くして亡くなった、たくさんの子どもたち。妾の子と書かれ、非嫡出子として戸籍に刻まれた人生。家や身分に縛られ、自分の意志で職も住む場所も、伴侶さえも選べなかった日々。そして、戦争。

人類の歴史の99%は、きっと、こんな時代だったのでしょう。

紙の上の、知らないご先祖様たちの人生をなぞりながら、ふいに言葉が降りてきました。——今の時代に生まれて、本当に良かった。

私たちが日々ぼやいている社会の歪みは、たしかに不愉快です。でも、命まで奪われることは、もう、ほとんどない。転職もできる。住む場所も選べる。誰と生きるかも、自分で決められる。制度の上では、私たちは今、人類史上もっとも自由な時代を、生きている。

ただ——制度の上では、という但し書きが、少し引っかかります。

自由は手に入れた。でも、働くことで幸せになれているか、と問われると、首を縦に振れない人が、少なくないのではないでしょうか。長時間労働、賃金の停滞、物言えぬ職場の空気。ご先祖様が背負わされていた鎖とは形が違うけれど、何かに縛られている感覚は、まだそこにある気がします。

——そう気づいた瞬間、ずっと言葉にできなかった、ある違和感の正体が、ストンと腑に落ちたのです。

私が、技能実習制度にずっと感じていた違和感

日本の技術を学んで、母国へ持ち帰ってもらう——建前は、本当に、美しい話だと思います。

でも、現場で起きていたのは——

転職の自由がない。実質的に、移動が制限される。本人の希望とは違う環境でも、耐え忍ぶことが前提になっている。来日のための借金に縛られ、辞めるに辞められない人もいる。

これって、私のご先祖様が背負わされていた、家や身分に縛られた人生と、どこか似ていないでしょうか。私たちが、長い時間をかけて、ようやく手放してきたはずのもの。それを、海を渡ってやって来てくれた人に、もう一度背負わせてしまっている。

技能実習制度がその役割を終えると知ったとき、私は、正直、ほっとしました。

転籍が自由になったら、人が逃げる——その本音、わかります

新しく始まる育成就労制度について、業界からはこんな声が聞こえてきます。転籍(転職)が認められたら、すぐに人が逃げてしまう。使い勝手が、悪くなるんじゃないか。

人手不足の現場で、毎日歯を食いしばっている経営者の皆様の本音だと思います。理想論だけでは、現場は回らない。痛いほど、わかります。

でも、ほんの少しだけ、立ち止まって考えてみてほしいのです。縛らないと働かせられない——そういう関係を、知らず知らず認めてしまっていないでしょうか。

選ばれる自由が、相手にある。だから、企業は選ばれるための努力をする。その努力が、職場の空気を変えていく。そして、その変わった空気は——日本人の従業員にとっても、働きやすい場所に、必ずなる。

海を渡ってきた人を幸せにしようとする試みが、日本人自身がまだたどり着けていない、働いて幸せになれる職場への、静かな道を開くかもしれない。私には、そう思えてならないのです。

選ばれ続ける組織を、一緒に作りませんか

私は、ただ手続きを代行するだけの社労士・行政書士で、終わりたくないのです。書類を整える仕事は、もちろん全力でやります。でも、その先で、私が本当にやりたいのは、こういうことです。

企業と働く人が、対等なパートナーとして、選び、選ばれる関係を築くお手伝い。離れたくない、と思ってもらえる組織を、一緒に作っていく。

そのために必要なのは、特別な制度ではなく、たぶん、ほんの少しの想像力です。海を渡って、日本に来てくれた人の気持ちを、想像する力。その人にも、家族がいて、夢があって、誇りがあるのだと、思い出せる力。

それがある経営者のところには、人は、ちゃんと残ります。そしてその姿は、日本人の社員にも、必ず伝わります。

現実を知る前に、書いておきたかった

これから現場に深く入っていけば、もっと泥臭くて、矛盾だらけの現実を、たくさん見ることになるはずです。そんなの理想論だよ、と、誰かに笑われる日も来るかもしれません。

それでも、現実に揉まれて初心を忘れてしまう前に。家系図を眺めながら静かに込み上げてきた、この気持ちを、ここに残しておきたかったのです。

ご先祖様が、ついに見ることのできなかった景色を、私たちは今、生きています。だからこそ、海を渡って来てくれる人にも、その自由の景色を、ほんの少しでも分け合える日本で、ありたい。

——そんなことを、考えています。

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